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2025-11-04 22:43:00

32) 柳生心眼流の免許体系24  再入門の作法 

今日は再入門のお話をします。修行中に不幸にして師匠が亡くなってしまい、柳生心眼流を続けたいと思ったらどうしたらいいでしょうか。私たちの流れ、つまり星家の流れでは小具足免許か皆伝免許でないと独立とは言えません。もちろん甲冑免許まで稽古した方が、道場をやめてもご自身でしっかり稽古し、人生の友としていただくのは全く問題ないです。むしろそうしていただきたいです。教わった技を1本でも2本でもあるいは二十一箇条でも、ときどき稽古して武道の意味を考えていっていただきたいです。同じ道を求める大切な同門です。

一方、目録免許や甲冑免許の方が「柳生心眼流」と名乗って道場を経営したり、門人を入門させて伝書を発行すると、後々問題が生じる可能性が高いです。例えばそのような道場で発行した免許をもって、柳正館にいらした場合、それを認めることはできないからです。修行期間はある程度考慮いたしますが、免許自体は最初から取り直していただくことになると思います。

このため小具足か皆伝までの免許がなく、今後も道場での稽古を続けたいのであれば、小具足以上の免許をもつ先生に再入門することをお勧めしています。一関総本部でも星国雄先生が亡くなられたときに修行の途中であった方々は、総本部長 (現二代目星国雄) に再入門の手続きを行いました。

再入門するときには、新しい師匠はその方のもらっている伝書を確認します。これはどのようなところまで教わっているかをおおよそ把握するためです。「ここまで習っています」という口頭だけではだめです。これが当流の再入門の作法です。昔から伝書の書き方と一体で伝わって来ています。伝書を確認し、慎重にその方の状況、理解度をたしかめながら教えていきます。その方が素晴らしい方であれば、当然先に進んでいただいて流儀を背負っていただくことをこちらからお願いするかもしれません。ただ、例外はあります。例えば天災など人生の様々な理由で伝書を失ってしまった場合もあるからです。

一方でこのような手続きをとらず、技だけ教わろうと望む人もいたようです。こういうことはとても慎重にすべきこととされてきました。星国雄先生は「自分の弟子にならない者に伝授 (秘伝) の技を教えてはならない」とおっしゃっていました。

たとえば「先生は皆伝をやると言っていたが、亡くなってしまったので教わらずに終わったしまった。皆伝を教えてほしい」と言ってきた方がいらしたそうですが、星国雄先生は「あなたが先生に許可をとったら教えて差し上げましょう」と答えたそうです。 (亡くなっているので許可はとれないです)

ある方は「先生、皆伝を一緒に稽古しましょう」「親が亡くなったが皆伝まで教わらなかったので教えてほしい」「先生は相伝をお持ちなんですよね。私は知っていますよ」とか、いろいろと理由をつけて教わろうと来る人がいたそうですが、これはすぐに教えてはならないことになっています。師匠が教えなかったには理由がある可能性があるからです。おそらく他流でも古いところではこういうことがあるのではないでしょうか。

その方が真摯に武道を求めていて、その方の上達に資することがあれば、私も武道の先輩として一本二本は何らかの技をお見せしたりお教えすることはあります。しかし柳生心眼流をしっかり稽古したい場合は、再入門をしたうえで稽古を続けることが望ましいです。とくに上になればなるほど伝は細密になり口伝をしないと真の理解は難しいです。ほぼ同域まで心が育っていれば見せただけでわかるでしょうが、実際はそうはいかないです。授ける方と受ける方の実力や経験の差が全く違うからです。例えば、首近くに刀の切っ先を付けた場合、「頸動脈を切る」と早合点してしまうことはよくあります。見ている本人がその急所しか思い浮かばないからです。実際の口伝は違ったりします。だからちょっと1回見たくらいでわかるものではありません。先生も相伝の稽古では何回も同じ技を稽古してくださいました。

私も平成22年に埼玉に戻って柳正館を立ち上げ、初の小具足免許を出したのは令和6年、皆伝免許は今年になってからです。つまり埼玉に帰ってきて15年がたっています。そのくらいかかります。もし自分が死んだら一生懸命に稽古していただいた方々が他の先生に再入門しなければならなくなるので、正直早く出したい気持ちもありました。しかし急いでいいことはないと思い慎重にお教えしてきました。門人の方々も粘り強くついてきてくださいました。今は皆伝の方がいらっしゃるので私はおじいちゃん気分です。これからもすべきことはたくさんあるのですが、少し重荷がとれました。